ITの歴史

ITは、計算機の発明からインターネットの普及、クラウドとAIの台頭、そしてプログラミング言語の急速な多様化へと段階的に進化してきました。 現在のテクノロジーを正しく理解するために、ハードウェア・ネットワーク・ソフトウェアの歴史を重ねて俯瞰してみましょう。

IT History

黎明期(1940〜1960年代)

第二次世界大戦前後に大型計算機が開発され、軍事や科学計算で活用されました。真空管からトランジスタへの置き換えが始まり、コンピュータは小型化と高性能化への第一歩を踏み出します。アラン・チューリングが提唱した「チューリングマシン」の理論が、後のプログラム格納式コンピュータの設計思想を支えました。

  • 1946年:ENIAC(世界初の汎用電子計算機)が稼働
  • 1956年:IBMの磁気ディスク装置「RAMAC」が登場
  • 1958年:集積回路(IC)が発明される

この時代のコンピュータは政府・大学・大企業のみが利用できる「メインフレーム(大型汎用機)」で、専門オペレーターがバッチ処理で操作していました。計算速度の向上とともに、科学研究における「数値解析」の領域が大きく拡張されます。

普及期(1970〜1980年代)

マイクロプロセッサの登場により、コンピュータは企業から個人へと広がります。OSやアプリケーションの概念が整い、ITがビジネスを支えるインフラとして定着しました。

主なトピック

  • 1971年:インテルのマイクロプロセッサ「4004」発表
  • 1976年:Apple Iが発売、パーソナルコンピュータ市場が活性化
  • 1985年:Windows 1.0リリース、GUIによる操作が一般化
  • 1981年:IBM PCの成功をきっかけにPC互換機が世界へ普及
  • 1989年:ロータス1-2-3、WordPerfectなどオフィスソフトが企業で定着

ビジネスへのインパクト

オフィスワークにコンピュータが導入され、表計算やワープロによる業務効率化が進行します。また、UNIXの登場とC言語の普及によってマルチプラットフォーム開発がしやすくなり、コンピュータサイエンスの教育基盤が整いました。

ネットワークの時代(1990〜2000年代)

インターネットが商用化され、電子メールやWebが日常に浸透しました。検索エンジンやECサイト、SNSが登場し、情報流通の形が大きく変わります。

  • 1991年:World Wide Webが一般公開
  • 1995年:Windows 95発売、日本でもインターネットが急速に普及
  • 2004年:Facebook、2006年:TwitterなどSNSが誕生
  • 2008年:iPhone 3G発売、スマートフォンとアプリストアのエコシステムが確立

象徴的なサービス・技術

  • 検索エンジン:GoogleがPageRankを武器に検索品質を飛躍的に改善
  • EC:Amazonや楽天がオンラインストアを世界規模に拡大
  • 通信プロトコル:HTTP/1.1、SSL/TLS、Wi-Fi(IEEE 802.11b/g)などが標準化

ネットワークの普及は、企業におけるクライアント/サーバー型システムやERP導入を後押ししました。同時に、セキュリティ対策やプライバシー保護が重要な経営課題として浮上します。

クラウドとAIの時代(2010年代〜現在)

スマートフォンとクラウドサービスにより、いつでもどこでもITにアクセスできるようになりました。さらにAIや機械学習が実用化され、データドリブンな意思決定が企業競争力を左右しています。

キーワード

  • クラウドコンピューティング(AWS、Azure、Google Cloud)
  • モバイルアプリとエコシステム(App Store / Google Play)
  • ビッグデータとAI(ディープラーニング、生成AI、LLM)
  • DevOpsとコンテナ(Docker、Kubernetes)による運用自動化
  • ゼロトラストセキュリティとリモートワーク基盤の標準化

クラウドの利用形態はIaaS・PaaS・SaaSへと細分化し、企業は物理インフラを持たなくてもグローバルにサービスを展開できるようになりました。AIではニューラルネットワークとGPUの進化がブレイクスルーとなり、画像認識・自然言語処理・生成AIがビジネスの差別化要因になっています。

プログラミング言語の発展

ソフトウェアを支えるプログラミング言語も時代ごとの課題に合わせて進化してきました。言語の選択は開発速度だけでなく、組織のアーキテクチャや採用戦略にも影響します。

1950〜1960年代:科学計算と業務処理の始まり

  • 1957年:FORTRAN(IBM)が登場し、科学技術計算が効率化される
  • 1959年:COBOLが開発され、銀行や保険など事務処理システムで採用
  • 1958年:LISPがAI研究の標準言語として利用され、関数型の思想が生まれる

1970〜1980年代:構造化とオブジェクト指向

  • 1972年:C言語が誕生し、UNIXカーネルや組み込み開発の基盤となる
  • 1970年代後半:SQLが標準化され、リレーショナルデータベースの普及を後押し
  • 1980年:SmalltalkやObjective-Cがオブジェクト指向の考え方を普及

1990〜2000年代:インターネットと企業システム

  • 1991年:Pythonが公開され、読みやすさと豊富なライブラリで脚光を浴びる
  • 1995年:Javaが「Write Once, Run Anywhere」の思想で企業システムに拡大
  • 1995年:JavaScriptとPHPがWebアプリケーション開発を加速
  • 2009年:Go言語がGoogleから公開され、大規模分散システムで採用が進む

2010年代〜現在:モバイル・クラウド・安全性

  • 2010年:RustがMozillaから発表され、安全性と高速性を両立
  • 2011年:Kotlinが登場し、Android公式言語として採用される
  • 2014年:SwiftがAppleのモバイル・デスクトップ開発言語として主流に
  • 2015年:TypeScriptが大規模JavaScript開発の標準へ

言語選定のポイント

目的や保守性、開発チームのスキルセットに応じて言語選択は変わります。近年は、「安全性(型システム・メモリ管理)」「クラウドネイティブ対応」「コミュニティの活発さ」が意思決定の重要な基準になっています。

時代区分のまとめ

ビジネスの視点では、以下の3つのポイントを意識すると整理しやすくなります。

  1. 計算の自動化:大型計算機やパーソナルコンピュータで業務効率化。
  2. ネットワーク化:インターネットとクラウドで情報共有とスケールを実現。
  3. 知能化と抽象化:AI活用と高水準言語の発展で、開発と意思決定が高度化。